まきえや

[事件報告] 「ワンマン理事長」を退任へ 平安女学院事件

1 学院に混乱をもたらした理事長の式辞

「世の中には5種類の人間がいますね。一人は世の中にどうしてもあって欲しい人、二番目はどちらかと言うと、まぁ居て欲しい人。三番目は、世の中に居ても居んでもいい人。四番目は、世の中におったらあまりよくない人。五番目は、世の中におったら害になる人。さて、どれが一番いいでしょう?」

2021年3月、キリスト教系の総合学院である平安女学院高等学校の卒業式での理事長の式辞の一節です。この教育者として信じがたい式辞に対し、直後から批判の声が殺到し、学院は大変な事態となりました。

2 長らく続いてきた理事長のワンマン経営

2002年6月、平安女学院に就任した理事長は、従前の学院を「組合による管理運営」と批判し、自ら「ワンマン経営」と自画自賛する独裁的な運営をはじめます。経営再建のためとして、教職員の大幅な賃金カットを行い、教職員の本棒は理事長の裁量で決定できるとする給与規程の改悪を行いました。そのため、給与表に基づく教職員の定期昇給はなくなり、理事長が気に入った教職員のみを不定期に昇給させるようになりました。また、理事長は学院の人事にも介入し、意に沿わない教職員には不合理な懲戒処分を行いました。不適切な式辞の背景には、長年にわたる理事長のワンマン経営と奢りがあったのです。

3 理事長の暴挙と報復

式辞問題により学院運営は混乱に陥り、教職員らは事態の収拾に追われました。これに対し、理事長は反省するどころか、逆恨みから校長を懲戒解雇にし、副校長及び教頭全員を解任するという暴挙に出たのです。教職員組合は直ちにストライキ権の確立を決定し、理事長宛てに申入書を交付して抗議します。また、校長は裁判に訴えることにしました。学院運営がさらに混乱する中、ようやく理事長は反省の意を示し、校長の懲戒解雇及び副校長らの解任を撤回しました。また、翌2022年度には、理事長就任以来ほぼはじめて、教職員全員の昇給が行われました。

ところが、理事長は、式辞問題の解決に中心的な役割を果たした組合員4人に対し、不当な昇給差別を行ったのです。さらに、副校長と教頭を再び解任するという報復人事も行いました。これに対し、教職員組合は団体交渉を申し入れて交渉を重ねましたが、理事長は自身の非を認めようとしませんでした。

4 京都地裁への提訴

2023年1月19日、組合員4人が原告となり、理事長及び学院に対し、管理職の地位の確認と慰謝料を求めて京都地裁に提訴しました。同年3月16日の第1回弁論期日は、組合員だけでなく、生徒、保護者、支援者など、法廷に入りきらないほどの傍聴人が詰めかけました。引き続き3月25日に開催された集会にも多くの関係者が集まり、生徒を中心に据えた運営と教職員の待遇改善にむけ、裁判闘争への決意を固めました。

5 解決へ

この提訴と関係者の団結が大きな力となり、同年4月、理事長は退任し、学院との間で訴訟外で和解が成立しました。また、解任された副校長・教頭は管理職に復帰しました。そこで、裁判においては、学院に対する訴えは取り下げ、前理事長の責任追及に的を絞って訴訟活動を行いました。ところが、前理事長は、ここに至っても開き直りというべき主張を繰り返しながら、尋問への出頭は体調不良を口実に拒否したのです。

上記のとおり、前理事長の退任により、学院の運営は改善・改革が進んでいました。そこで、原告らは早期解決のため和解を選択することにし、裁判所で協議を重ねた結果、式辞問題、副校長・教頭の解任及び昇給差別について、いずれも前理事長の非を認める勝利的和解が成立しました。教職員組合、生徒、保護者、支援者らの団結した闘いにより、長期にわたったワンマン経営は終了し、学院経営は刷新されたのです。

(当事務所の担当弁護士:村山、大島、谷、細田、尾﨑文紀)

提訴時の記者会見

「まきえや」2025年秋号